2008年6月29日
[2010年6月4日修正]
膨張式ライフジャケット 膨張装置のメンテナンス

普段利用する際には汚れを布でふき取る程度で結構ですが、ひどく海水をかぶった場合や年に一度くらいは、膨張装置の点検・確認を含めたメンテナンスをしたほうがよいでしょう。
また、ライフジャケットをボートの法定安全備品として使用されている場合は、船舶検査の対象となります。検査時の注意点についても説明していますので参考にしてください。


■CONTENTS■
A.膨張式ライフジャケットの商品概要と構造
B.メンテナンス編
C.船舶検査での使用について


A.膨張式ライフジャケットの商品概要と構造
A-1.首掛け型とウエストベルト型のちがい
膨張式ライフジャケットには装着場所により、首掛け型、ウエストベルト型などの種類があります。また落水時に自動的に膨張する自動膨張式と緊急手動レバーを引かないと膨張しない手動膨張式の2種類があります。(自動膨張式と手動膨張式のちがいは後述します。)

A-1-1 首掛け型の構造 (写真は自動膨張式の例です。)
通常着用時
<パーツの説明>
(1)カバー生地(膨張時には気室の裏側になります。)
(2)自動膨張装置の内蔵位置
(3)緊急手動レバー

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(1)カバー生地はマジックテープで気室(下図参照)を包み込んでおり、収納時の気室の破れ、汚れなどを保護するようになっています。
膨張時 (画像は膨らんでおりません。)
<パーツの説明>
(1)気室
(2)再帰反射材
(3)呼笛
(4)空気注入口
(5)膨張装置
(6)緊急手動レバー

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海上で発見しやすいように救命胴衣の(1)気室の色は黄色になっており、夜間発見がしやすいように(2)再帰反射材が取り付けてあります。また、救命用の(3)呼笛も備え付けてあります。
(5)膨張装置により自動もしくは手動で炭酸ガスボンベを作動することにより気室が膨張しますが、気温・水温などの環境変化により気室の内圧が低下して十分な浮力が得られなくなった時は、(4)空気注入口から息を吹き込んで空気を補充します。
A-1-2 ウエストベルト型の構造 (写真は手動膨張式の例です。)
通常着用時
<パーツの説明>
(1)カバー生地
(2)膨張装置の内蔵位置
(3)緊急手動レバー

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ウエストベルトの中心に(1)膨張装置がセットされています。 右側に(3)緊急手動レバーが出ています。
膨張時
<パーツの説明>
(1)気室
(2)呼笛
(3)空気注入口

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気室の右端に(2)呼笛、左側に(3)空気注入口が備え付けられています。
膨張装置部分の拡大図(通常着用時)
<パーツの説明>
(1)気室(膨張前)
(2)炭酸ガスボンベ
(3)膨張装置
(4)緊急手動レバー留めピン
(5)緊急手動レバー(引きヒモ)

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このモデルは手動膨張式のため炭酸ガスボンベと膨張装置本体と緊急手動レバーのみとなっています。

A-2.自動膨張式と手動膨張式のちがい

A-2-1 自動膨張式の例
<パーツの説明>
(1)炭酸ガスボンベ
(2)膨張装置本体
(3)緊急手動レバー留めピン
(4)スプールキット(スプール&スプールカバー)
(5)緊急手動レバー

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いずれのモデルも(1)炭酸ガスボンベ(2)膨張装置本体(3)緊急手動レバー留めピン(4)スプールキット(スプール&スプールカバー)(5)緊急手動レバーから構成されています。
スプールカバーに水が入ることにより、スプールの錠剤が溶け抑えられていた突起がバネにより針を押し上げボンベに穴を開けガスが気室内に放出する仕組みになっています。
万一動作しなかった場合のために、緊急手動レバーも同時に装備されております。
自動膨張装置の仕組み<BE WAVEの例>
<スプーールを外した状態>
自動膨張装置から自動膨張させる黄色の部分(以下スプールと称します)を取り出した写真です。
収納時にはスプールがバネで抑えられています。スプールが水にふれるとスプール内の錠剤が溶け、抑えられていた突起が針を押し上げボンベに穴を開け炭酸ガスが放出する仕組みになっています
<スプール収納状態>
赤丸部分にある穴から水が進入しスプールを溶かします。
赤丸部分の穴からしか水が入らないので、雨やしぶきなど、正面や上から被る程度では誤動作する恐れはほとんどありません。ただし、多湿な環境下での保管は避けて下さい。
A-2-2 手動膨張式の例
<パーツの説明>
(1)炭酸ガスボンベ
(2)膨張装置本体
(3)緊急手動レバー留めピン
(4)緊急手動レバー引きヒモ
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(4)緊急手動レバーを引くことにより(3)緊急手動レバー留めピンが外れ膨張装置内部の突起が針を押し上げボンベに穴を開けガスが気室内に放出する仕組みになっています。緊急手動レバー留めピンが不用意に外れないように注意してください。
※手動タイプには自動膨張式にみられるスプール&スプールカバー(前図(4))がついていません。

B.メンテナンス編
B-1.膨張装置の点検
※製造メーカーによりシステム・パーツが異なりますので、必ずご購入製品の取り扱い説明書をご参照ください。

B-1-1.膨張装置の分解 (※図はBE WAVEの自動膨張)
メンテナンスをするにはまず、(1)炭酸ガスボンベと、(2)自動膨張装置の下についている(3)スプールキット(スプール&スプールカバー)を取り外します。 この2つさえ取り外しておけばメンテナンス中に誤動作して膨張するおそれはありません。こうすればライフジャケット本体の水洗いもできます。
B-1-2.ガスボンベの点検
(1)炭酸ガスボンベについて
中には液化二酸化炭素(液化炭酸ガス)が入っています。直接触れると凍傷を起こす恐れがあり、眼に入れば失明の恐れがあります。点検作業中に傷をつけて直接触れないように注意してください。
ボンベの表面には、製造会社、型番、製造年月、総重量(GW)が刻印されています。
(2)ボンベの外傷と重量の点検
ボンベ先端の写真です。封板に傷などがないか確かめておきます。ボンベの不備が疑われる場合は、料理用の秤でボンベの重量を計測して確認をします。
利用後もしくは傷でボンベのガスもれがある場合、炭酸ガスが噴出されるため既定の重要量より軽くなります。
ボンベ表面に記載された重量(GW)よりも軽くなっていたら使用しないで新しいものに交換してください。
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例: BE WAVE社製の場合
自動膨張用(LG−1型) 約147.5g、 利用後には33g軽くなります。
手動膨張用(LG−3型)約81.5g、 利用後には17g軽くなります。
B-1-3 膨張装置の点検
(1)ガスボンベ取付口の点検
下から針(撃針)が出ているのがわかるでしょうか。これでボンベの封板を突き破って充気する仕組みです。
ボンベを再び取り付ける際は撃針が露出していないことを確かめておきましょう。
また、底部のゴムパッキンが傷んでいないか確認しましょう。パッキンが紛失もしくは破れている場合、またはパッキンの縁部がほつれている場合には製造メーカーでの修理となります。
(2)緊急手動レバー留めピンの点検
万一スプールが正常に機能しない場合、緊急手動レバーを下に引くことにより緊急手動レバー留めピンがはずれ、スプールカバーの中にあるバネがスプールと針(撃針)を押し上げボンベに穴をあけて気室が膨張します。
緑色の緊急手動レバー留めピンにガタがきていないかを確認してください。万一、不用意に外れてしまうとボンベに穴をあけてしまいます。
B-1-4 スプールキットの点検
<BE WAVE>

この例は2007年5月18日製造です。
(1)スプール内の白い蛇腹状の錠剤に汚れや変質がないかを確認しましょう。
スプールの側面には、製造年月が記載されていますが、スプールキットに装着しない場合の通常保管では劣化がほとんどありません。
製造メーカーでは、購入後もしくはスプールキットに装着したときから3年以上たった時点での交換を推奨しています。
(2)真鍮の突起部分に形の異常がないか、緑色の部分の下にセットされたバネに十分に弾力があるかを確認してください。 また透明のスプールカバーの傷やひび割れ、ネジの部分にガタがきていないかも確認してください。
(3)赤丸の進入口に詰まりがないか、変形がないかを確認してください。
また、緑丸の部分が自動膨張装置機能確認個所です。スプールカバーを装着した状態で緑のプラスティックパーツが3mmほど出ている状態が正常です。
3mm未満の場合はカバーがしっかり締まってないか、スプールに異常がある可能性があります。
<ワイズギア>
ワイズギアのこのモデルの場合、スプールキットの端にスプールの利用期限(約3年間)が刻印されています。交換時期の目安となりますので点検の際に必ず確認ください。
写真の例の場合、「2010年12月までに交換してください」という意味です。
B-1-5.炭酸ガスボンベ及びスプールキットの交換(スペアキット)
救命胴衣を膨張装置で膨張させたとき、また上記の点検で問題がありましたら炭酸ガスボンベとスプールキットの交換を行ってください。 当店では以下のようなスペアキットを用意しております。
BE WAVE:購入後もしくはスプール交換後3年以上経過した場合
ワイズギア:利用期限を経過した場合


<膨張装置のスペキット例>
BE WAVE
自動膨張式用
適合型式LG-1、WR-1など
BE WAVE
手動膨張式用
適合型式LG-2、WR-2など
ワイズギア
自動膨張式用
適合型式YM005など
ワイズギア
手動膨張式用
適合型式YM2300、
YM5100など
※スペアキットの詳細はこちらを参照してください。

製造メーカーによって、また自動か手動かによっても適合モデルが異なります。必ずご購入されたライフジャケットにあったスペアキットをお求めください。
自動膨張のガスボンベおよびスプールキットにつきまして、メーカーでは安全に使用していただくために未使用であっても次のように交換を推奨しています。

B-2.気室の点検

B-2-1. 空気注入口からの気室の膨張方法
気室及びカバー生地に破損個所があると空気漏れの原因となり所期の機能を果たすことができません。特に初回着用時やシーズン開始時には目視だけではなく、空気注入口より息を吹き込んで気室を膨張させ一日放置して空気漏れがないかどうかを確認してください。
B-2-2. 気室膨張後の排気方法
気室内の空気を排気する時は、空気注入口のキャップを外し空気注入バルブの先の中部分を棒状の物で押し込むと空気が排気されます。気室を検査で膨張した場合は、気室内の空気を完全に排気してください。

B-3.その他の点検ポイント
・気室及びカバー生地に傷など破損していないこと
・気室が膨らんでいないこと(炭酸ガスが漏れている場合があります)
・縫製部分の糸のホツレ及び糸切れがないこと
・各部ベルトやバックルに傷がないこと
・収納用マジックテープがはがれていないこと
・再帰反射材が汚れていないか、はがれていないこと
・呼笛が適切に装備されていること。紐が切れていないかなど
・空気注入口に亀裂などがないこと
・自動膨張装置に異常がないこと(下記3を参照ください)
・緊急手動レバーがすぐに引ける状態であること

B-4.修理が不可能なもの
以下の不具合は修理が不能のため、製品の買い替えが必要となります。
A.気室が破損しているとき
B.カバー生地が破損しているとき
C.空気注入バルブが破損しているとき
D.スペアキット交換可能部品以外で、膨張装置が破損しているとき
E.その他、製造会社が救命胴衣の破損部を修理不可能と認めたとき

C.船舶検査での使用について

C-1.膨脹式ライフジャケット 法令に関する知識
日本小型船舶検査機構検査事務規程細則
第2編 小型船舶の検査の実施方法に関する細則
2-2-3項検査の実施 「表2-5 救命設備」
「膨脹式救命胴衣にあたっては、気室の膨脹試験及びガスボンベの検量を行なう。但し、製造後5年以内の膨脹式救命胴衣の気室の膨脹試験については、現状良好な場合は省略しても差し支えない」


首かけ型の例(ワイズギア)
ウエストベルト型の例(BE WAVE)

膨張式ライフジャケットを法定安全備品として船舶検査で使用する場合、製造後5年以内であれば膨張装置の検査は免除されます。つまり外観で著しい損傷がなければ基本的に合格します(国土交通省型式認定品には必ず上記の写真のように製造年月日の表示があります)。新艇検査において製造直後のライフジャケットを使用した場合、3年後の中間検査では外観チェックのみ、6年後の定期検査以降の検査で膨張装置の点検が実施されることになります。

それでは5年を経過したライフジャケットの場合はどのような点検があるのでしょうか。JCI名古屋支部に確認したところ、気質を膨らませて漏れがないかどうかの点検と膨張装置の目視点検を行うそうです。

船舶検査においてガスボンベおよび膨張装置の明確な使用期限はありません(メーカー推奨はあります)が、生命にかかわることですので自主的な安全点検が必要です。取扱説明書をよく読んで適切な点検、部品交換を実施してください。なお製品を改造すると機能に支障をきたすばかりでなく、国土交通省の認定品として取り扱ってもらえなくなりますので、くれぐれもご注意ください。

参考までに、膨張式ライフジャケットは高速走行艇や常時水に濡れる場面での使用に適しておりません。当店ではPWC、小型ヨット、激流カヌー等への使用はおすすめしておりません。

なお、製造メーカーは船舶検査のために成績表を発行しております。必要な方は下記の場所にお問い合わせください。


<BE WAVE製品>

問合せ先: ネオネットマリン 電話番号 0564-56-1000 E-MAIL neonet@jsp21.co.jp

■検査費用(成績表付き): 現在のところ無料 *将来有料化の予定
■ガスボンベ等の部品交換があった場合は部品代別途請求
■往復送料: お客様負担
■商品発送先
   株式会社オーシャンライフ
   〒644-0005 和歌山県御坊市名屋町2-8-1
   電話 0738-23-4616
■発送の際は、お名前、ご住所、お電話番号、購入店「ネオネットマリン」をご明記ください。
■検査には10日〜2週間ほどかかります。


<ワイズギア製品>

問合せ先: 高階救命器具株式会社
〒556-0028 大阪府大阪市浪速区久保西1丁目1番34号
電話 06-6568-3512

■検査費用(成績表付き): 税込3,150円
■ガスボンベ等の部品交換があった場合は部品代別途請求
■往復送料: お客様負担
■検査には10日〜2週間ほどかかります
■決済方法: 代金引換え
■発送の際は、お名前、ご住所、お電話番号、返却希望日などをご記入ください。
■検査には10日〜2週間ほどかかります。

*このお役立ち講座内の情報は2008年10月現在のものです。